只野先生の乳酸菌道場

はじめまして、金沢大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーヘルスケア医学研究室代表の只野武です。私は長年、東北薬科大学でアルツハイマー病や統 合失調症の原因究明を行っていました。
その最中の1992年、企業からの委託研究でおこなった滋養強壮ドリンク剤(ゼナ)の抗疲労効果を国内で初めて立証 する機会に恵まれました。

これをきっかけに、さまざまなサプリメントの有効性を検証するようになり、現在は乳酸菌をはじめとする食品の機能性成分の研究を おこなっています。

サプリメントは顆粒、粉末、錠剤、液体、ゼリーなどさまざまなタイプが あります。
そのため、とくにサプリメントに馴染みの少ないご高齢の方などには、一般的な薬と混同されることもありますが、サプリメントはからだに不足して いる成分を補うものであって、治療薬としての効果はありません。サプリメントは食品として扱われ、過剰摂取や薬との飲み合わせなどに気をつければ、副作用 の心配が少なく、コンビニやネット通販でも手に入る手軽さがあります。

とはいえ、サプリメントを製造・販売するにあたっては、品質の安全性が最優先です。 種類によっては、私のような薬学の研究者などの専門家が、最初は試験管の中で、次にマウスやラットなどで、そして安全性が確かめられた段階で、ヒトによる 臨床試験をおこない効果を調べます。
食品に分類されているといっても、サプリメントは特定の成分が凝縮されているので、米や野菜といった食べものから栄養 をとるのとは、ちょっと状況が異なるのです。

では、不足しがちなものは何でしょうか?
まず、一般的に多いのがビタミ ンとミネラル、食物繊維です。そしてもうひとつ。食物繊維不足が一因して善玉の腸内細菌も減少していくと考えられています。腸内細菌というのは、小腸の下 部から大腸にかけてたくさん住みついている微生物です。

この微生物は、ビフィズス菌やラクトバチルス(乳酸桿菌)、乳酸球菌など人間の健康維持に有用なは たらきをする菌(俗にいう善玉菌)と大腸菌毒性株やウエルシュ菌のように腸のはたらきを衰えさせる菌(悪玉菌)、そのどちらでもない菌(日和見菌)に大別 されます。
その数およそ200種類、100兆個。総量で約1.5kgにもなるほどです。善玉菌、悪玉菌、日和見菌の割合でいうと2:1:7で、腸壁を内視 鏡で拡大すると、花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。バナナ状の褐色の大便が、毎日、きちんと排泄されて腸の状態がよいとき、 この腸内フローラは、善玉、悪玉、日和見菌が調和を保っています。

腸内フローラのバランスは年齢とともに変化して、高齢になるほど悪玉菌 が増えてきます。
また、ストレスや食物繊維の少ない食生活も悪玉菌増加の原因となります。しかし、健康維持のためには、これは何とか防ぎたい。そこで、腸 内細菌のエサとなる「プレバイオティクス」と、ビフィズス菌や乳酸菌などの生菌「プロバイオティクス」の登場となります。

プレバイオティクスというのは、 食物繊維とオリゴ糖です。このうち食物繊維が多いのは海藻、きのこ、野菜、雑穀、胚芽米、大麦、そば、さつまいも、豆、こんにゃくなど。オリゴ糖を多く含 むのはタマネギ、アスパラガス、ゴボウ、バナナ、大豆、牛乳、ハチミツなどです。プロバイオティクスは、ヨーグルトやチーズ、漬物、納豆、味噌などの発酵 食品に含まれています。

ただ、プロバイオティクスは生きた菌なので、腸に到達する前に胃酸にやられてしまいます。ヨーグルトの商品パッケージなどに、「生 きたまま腸まで届く生菌」と表示されていても空腹時は避け、食後の胃酸が薄まるタイミングに食べたほうが賢明です。

乳酸菌は炭水化物(糖質、食物繊維)を発酵させて乳酸をつくる菌の総称 で、250種類以上あり、ラクトバチルス(乳酸桿菌)、乳酸球菌、ビフィズス菌、エンテロコッカスなどに分類できます。

そして、小腸のパイエル板と呼ばれ る部分で、免疫抗体の一種であるIgA抗体を産生し、大腸では善玉菌をつくります。ところが、生菌は胃酸でやられてしまいます。実際、私たちの研究チーム がマウスでおこなった実験では、生菌のラクトバチルスと加熱処理した乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスEF-2001を比較すると、後者のほうが圧倒的 にIgA抗体の産生量が多かったのです。

死菌というと効果がないように思われがちですが、とんでもない誤解です。加熱処理後に有効成分だけを取り出したも のは、からだに直接作用して腸内環境を整えるはたらきがあるのです。

そして、近ごろはこの効果が専門家のあいだでも認知されるようになり、胃酸にやられる 心配がないうえに、1mg中の菌数が生菌より圧倒的に多いこともあり、乳酸菌を加熱殺菌処理したサプリメントが普及しはじめています。

加熱殺菌した乳酸菌は、「バイオジェニックス」の一種です。
バイオジェ ニックスというのは、腸内細菌研究の第一人者である東京大学名誉教授の光岡知足先生が提唱した用語で、私たちが研究している乳酸菌エンテロコッカス・フェ カリスEF-2001の菌体成分やポリフェノール、免疫賦活物を含む生理活性ペプチドなどの食品成分のことをいい、「免疫賦活、コレステロール低下作用、 血圧降下作用、整腸作用、抗腫瘍効果、抗血栓・造血作用などの生体調節、生体防御、疾病予防・回復、老化制御等にはたらく食品成分」と定義されています。

私は、乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスEF-2001の研究を10年近くおこなっていますが、バイオジェニックスの定義にあげられている効果の数々は 実験で立証済みです。もちろん、実際に自分でも毎日とって様子を観察し、風邪を引かなくなったのを実感しています。

また、研究仲間の臨床医の先生たちから は、アレルギー疾患に有効だった、ガンの化学療法中の患者さんの副作用が低くなり、QOLを保つことができるばかりではなく普通に食事がとれるので体力維 持に役立っているようだという声も届いています。
プロバイオティクス、プレバイオティクスに加えて、これからはバイオジェニックスも腸内環境づくりに欠か せない要素となるに違いありません。